2007/2/2
都立推薦入試発表の日、朝からボクとなおみ先生は携帯電話の押し付けあいをしています。
推薦の試験はアリバイ的に作文と面接があるけれどほぼ内申点で決まるので、受験前からだいたい合否がわかってしまいます。実力適正な高校を受けると必ず落ちるわけで、そんな制度はどうかとも思うのですが、学校の成績はいいけれど5教科の試験が苦手な子や、ひとつふたつランクを下げても絶対に都立高校に行きたい子には助かる制度なのです。当然、適正校に挑戦するウチの子たちは大半が落ちてしまうので、この日の報告電話は気が重いのです。
じゃんけんに負けて電話とりの順番はボクからになりました。10時過ぎ卓上の携帯電話が最初の着信を知らせます。ディスプレイにサヤカの名前。
「ぬぉわー!!よりによってオレの順番のときにサヤカかよぉ!」
NYCなおみ組のサヤカの内申は実質基準より3,4点足りていないと思われます。ボクは深呼吸して電話を取りました。
「サヤカか。元気出せ。オレが必ず本番で合格させるぞ。だから…」
「シュウ先生ぅ~。あるの~。」
「へ?」
「サヤカの番号があるの~」
「な、何だってー!!!!」
話は10日ほどさかのぼった入試前のある夜のこと。ボクはなおみとサヤカを呼んで話しました。
「サヤカの内申では今度の推薦は必ず落ちる。そこで一か八かダメもとの勝負に出ないか?」
「勝負って!?」
サヤカとなおみが同時に聞き返しました。
「グループ面接のとき、『私は英語が得意なので英語で答えさせてください。』って言ってみる。いくら内申でほとんど決まると言っても、判定会議では面接で印象に残った子を挙げる機会があるはずだ。その時報告せずにはいられないほど強い印象を面接官に残す!!名付けてMIP作戦!!」
「うんうん」
「もちろん、ユーモアがわかって多少英語に自信のある面接官に当たらなかったら失敗だけど、それでも印象には残ると思うんだよ。どうせこのままなら不合格は決まってるんだし、やってみる価値はあるぜ。」
「うん!サヤカやる!!」
「もし、ダメって言われてもめげずに日本語でちゃんと応答するんだぞ。」
あらゆる質問を想定した返事をなおみが英訳して、サヤカが暗記するという作業が始まりました。前日には度胸をつけるため、なおみとの質疑応答を中3全員の前で練習しました。
そして試験当日。
「英語はダメって言われちゃった。でもちゃんと日本語で答えたよ。面接官の人、すっごく笑ってた。」
…笑ってた?
「そりゃ、ぜったい合格したいという好印象を残したかもしれないぞ。作戦は成功だ。」
「うん♪」
もしも、そのときの面接が内申のハンデをひっくり返したとしたら…
「オレの大手柄じゃん!」
「先生ありがとう!」
「わーっはっはっはー!!」
ほかにNYC組のユミ、内申が圧倒的に良かったマイコ、サッカー部のキャプテン・タカが推薦で第一志望を射止めました。教室はいよいよ10日の私立、23日の都立一般入試に向けて追い込みに入っています。