12進法

December, 2009

かつて時計を発明した人々は指を6本持つ種族で、とても高い文明を持っていた。この話の真偽は定かでないが、N進法を教えるときの持ちネタである。

「賢いから、たぶん腕力はなかったんだろうな。ある日、やってきた5本指の野蛮人たちに…ボコボコボコボコボコボコボコボコ!」

紳士的に接待しようとする賢人たちに襲いかかる現代人の祖先たち。その立ち回りを演じると、毎年子どもたちは大ウケ、大喜び。授業のツカミの定番である。

「その人たちはどうなったの?」

もっともな疑問である。その答えをボクは小学生のときから知っている。手塚治虫の未完の名作「パンパイヤ」に出てくるクールな悪役ロックこと間久部緑郎が6本指の持ち主だったからである。滅ぼされたその種族の優れた遺伝子がわずかに残り、今でも世界中で才能あふれる6本指の赤ちゃんが生まれ続けている。

「もっとも指の方はほとんどの場合、生まれてすぐに手術で取ってしまうそうだけどな。」
「あーあ、オレも6本指だったらよかったのになあ。」

勉強の苦手なユウトがぼやく。遺伝子の話も手塚の受け売りで、真偽を確かめないまま、20年来ネタに使ってきた。

「あのね、先生」

授業が個別演習タイムになったとき、はにかみ屋のハルがボクの耳元で囁いた。

「あたし、生まれたとき、指が6本あったんだって。」
「えー!!」
「お母さんが言ってた。生まれてすぐに切っちゃったんだけど。」

ボクはまじまじとハルを見た。誇り高き種族の末裔に会うのはもちろん初めてである。

手塚の話は真実だったことになる。思えば彼は医学博士でもあったのだ。

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